
最近『呪術廻戦』にハマってるんだけど、五条悟みたいな最強の呪術師って、もしかして昔の日本にも本当にいたのかな?特級呪霊と戦ったり、すごい術式を使ったり…

さすがに呪霊と戦っていたかは分からないけど、その質問に一番近い答えは『陰陽師(おんみょうじ)』ね。平安時代の日本には、国家公務員として天皇に仕え、天文学や占術、そして呪術的な儀式を司る専門家たちがいたのよ。
『呪術廻戦』に登場する『御三家』、特に五条家や加茂家の設定は、この陰陽師の歴史と深く関係しているの。この記事では、そのモデルとなった安倍晴明や賀茂氏の系譜について詳しく解説していくわ。
呪術廻戦と陰陽道
御三家のモデルとなった陰陽師の系譜
陰陽道 (おんみょうどう) の世界
このセクションでは、『呪術廻戦』の世界観の根底にある「陰陽道」について解説します。陰陽道は、古代中国から伝わった思想が日本で独自の発展を遂げた自然科学であり、呪術大系でもあります。ここでは、その基本的な概念と、宮中を支えた「陰陽寮」の歴史的な影響力の変遷を探ります。
陰陽道とは?:詳細解説
陰陽道は、古代中国で生まれた二つの主要な思想、「陰陽思想(いんようしそう)」と「五行思想(ごぎょうしそう)」を基盤としています。これらが日本へ伝来した後、日本の土着の信仰や技術と融合して独自の発展を遂げました。
1. 基盤となった思想
- 陰陽思想: 宇宙の森羅万象は、すべて「陰(いん)」と「陽(よう)」という二つの相反する性質によって成り立っているという考え方です。例えば、「光と影」「太陽と月」「男と女」「動と静」など、一方が存在することで他方が存在し、両者がバランスを取り合うことで世界が調和しているとされます。
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五行思想:
万物は「木(もく)・火(か)・土(ど)・金(ごん)・水(すい)」の5つの元素(五行)から構成されるという思想です。これら五行は互いに影響を与え合う関係にあります。
- 相生(そうじょう): 一方が他方を生み出す関係。(例:木は燃えて火を生む)
- 相剋(そうこく): 一方が他方を打ち負かす関係。(例:水は火を消す)
2. 日本での独自の発展
これらの思想は、飛鳥時代から奈良時代にかけて、仏教や儒教と共に日本に伝わりました。当初は主に天文学や暦(こよみ)の作成技術として導入されましたが、次第に日本古来の神道(天地や神々の観念)、道教(神仙思想や符術)、仏教(特に密教の呪術)と複雑に融合していきます。
この過程で、単なる占術や学問から、祭祀、呪術、悪霊退散(除霊)、方違(かたたがえ:凶方位を避ける)といった、より実践的で日本独自の「呪術大系」としての側面を強めていきました。これが日本特有の「陰陽道」です。
3. 陰陽師と「陰陽寮」
平安時代、朝廷は律令制のもとで「陰陽寮(おんみょうりょう)」という役所を設置しました。これは現代でいう省庁の一つにあたります。 陰陽寮に所属する専門家たちが「陰陽師(おんみょうじ)」と呼ばれ、彼らは国家公務員として以下の業務を担いました。
- 天文・占星: 天体の動きを観測し、日食や月食、彗星の出現などを予測し、それが国家に与える影響(吉凶)を占いました。
- 暦の作成: 日々の吉凶や行事に適した日(縁起の良い日)などを記した暦を作成し、天皇の行動や政治の指針としました。
- 占術・呪術: 天変地異や疫病が発生した際、その原因を占いで突き止め、呪術的な儀式(祭祀)を行って災いを鎮めようとしました。
- 遷都や建築: 都や建物を建てる際の土地の選定(風水)や、縁起の良い方角(方位)を定めました。
特に平安京では、天皇や貴族たちの生活に深く根付き、政治的な決定にも大きな影響を与える、国家にとって不可欠な存在となっていったのです。
陰陽寮の権威と衰退
平安時代中期、陰陽寮は最盛期を迎えます。しかし、武士が台頭する鎌倉時代以降、朝廷の権威が低下するとともに陰陽寮の力も徐々に衰えていきました。 室町時代には、陰陽寮の長官職は安倍家(後の土御門家)と賀茂家(後の勘解由小路家)によって世襲されるようになり、陰陽道は朝廷を離れ、民間の間でも広く行われるようになりました。
陰陽師の家系と有力な術師
陰陽道は特定の家系によって世襲され、その技術が磨かれていきました。ここでは、平安時代に陰陽寮で活躍した二大巨頭である安倍家と賀茂家、そして呪術廻戦の御三家のモデルとなった可能性のある家系について探ります。
安倍氏 (あべうじ) と 安倍晴明
平安時代の陰陽師として最も有名なのが安倍晴明(あべのせいめい)です。彼は賀茂忠行・保憲親子に陰陽道を学び、卓越した天文道と呪術の才能で天皇や貴族から絶大な信頼を得ました。 晴明の死後、安倍氏は陰陽道の中でも特に「天文道」(天体観測と占星術)を司る家系として陰陽寮での地位を確立しました。 室町時代には「土御門家(つちみかどけ)」と名を改め、江戸時代には幕府から全国の陰陽師を統括する権限を与えられ、陰陽道の宗家としての地位を不動のものとしました。
賀茂氏 (かもし) と 賀茂忠行・保憲
モデル: 加茂家
安倍晴明の師匠筋にあたるのが、賀茂忠行(かものただゆき)と、その息子の賀茂保憲(かものやすのり)です。 賀茂氏は陰陽寮において「暦道」(暦の作成)を専門とする家系であり、忠行は陰陽道の諸分野において当代随一の実力者とされました。
息子の保憲も父の技術を受け継ぎ、安倍晴明に天文道を、自身の子には暦道を継承させました。これにより、陰陽道は「天文の安倍氏」「暦の賀茂氏」として二分され、発展していきます。 『呪術廻戦』の加茂家は、この賀茂氏をモデルにしているとされ、特に「加茂憲倫」という名前は、賀茂氏の著名な陰陽師である「賀茂(安倍)有行」や「賀茂光栄」などを想起させます。
禪院家のモデルについて
モデル: ??(明確なモデルは不明)
五条家(安倍氏)や加茂家(賀茂氏)とは異なり、禪院家には明確な歴史上のモデルが存在しないとされています。 その代わり、禪院家は「呪術廻戦」という作品における「伝統的な呪術師の家系」の典型、あるいは負の側面を象徴する存在として創作されたと考えられます。
血統と相伝の術式を絶対視する保守性、閉鎖性、そして才能のない者を排除する冷酷さは、多くの創作物に見られる「古い名家」のイメージを集約したものです。また、伏黒恵の術式「十種影法術」は、陰陽道における式神(特に安倍晴明が使役したとされる十二天将)の概念に基づいている可能性が非常に高いです。
菅原道真 (すがわらのみちざね) と 五条家
モデル: 五条家『呪術廻戦』の作中において、五条家の祖先は「陰陽師」の安倍晴明ではなく、平安時代の貴族であり学者・政治家であった「菅原道真(すがわらのみちざね)」であることが明言されています。
菅原道真は、宇多天皇に重用され右大臣にまで昇進しましたが、政敵であった藤原時平の讒言(ざんげん)により大宰府(現在の福岡県)に左遷され、失意のうちに亡くなりました。
道真の死後、京では落雷などの天変地異が相次ぎ、これらが道真の「怨霊」によるものと恐れられました。彼は日本三大怨霊の一人として知られるようになり、後にその怨霊を鎮めるために北野天満宮(京都)などに「天神」として祀られました。
『呪術廻戦』における五条家は、この菅原道真の血筋であり、作中最強の術師である五条悟もその子孫です。歴史上の陰陽師の家系(安倍氏や賀茂氏)とは異なる、日本三大怨霊の一人を祖先に持つという設定が、五条家の特異性と強大さを示しています。

ここまでが、日本の歴史や伝説に残る『陰陽道』と『陰陽師』の家系のお話。 安倍晴明や賀茂氏が、当時の社会でいかに重要な存在だったかが分かるわよね。
さて、ここからはこの史実や伝説が、芥見下々先生の『呪術廻戦』という作品の中で、どのように『御三家』の設定として昇華されているのか。その繋がりを見ていきましょう。
『呪術廻戦』 概要
『呪術廻戦』(じゅじゅつかいせん)は、人間の負の感情から生まれる化け物「呪霊」と、それを祓う「呪術師」の戦いを描いたダークファンタジー・バトル漫画です。 主人公の虎杖悠仁が、特級呪物「両面宿儺」の指を取り込んだことをきっかけに、呪術師の養成機関である「呪術高専」に入学し、仲間たちと共に過酷な戦いに身を投じていく物語です。
- 作者: 芥見下々(あくたみ げげ)
- 出版社: 集英社
- 掲載誌: 週刊少年ジャンプ
- 連載開始: 2018年
本作の魅力は、スリリングなバトル描写だけでなく、本セクションで解説するような日本の伝統的な呪術(陰陽道など)や神話、仏教の概念をベースにした緻密な世界観設定にあります。
呪術廻戦の「御三家」
『呪術廻戦』の世界では、平安時代の有力な術師の血筋を受け継ぐ「五条家」「禪院家」「加茂家」が御三家と呼ばれ、呪術界において絶大な権力を持っています。ここでは、各家系の特徴と主要な人物を解説します。
五条家
『呪術廻戦』の作中設定において、五条家は平安時代の貴族「菅原道真(すがわらのみちざね)」の子孫です。歴史上、菅原道真は日本三大怨霊の一人としても知られています。
御三家の中でも随一の権力と影響力を持ちますが、現当主である五条悟の革新的な思想により、保守的な呪術界上層部とは対立しています。
相伝の術式: 「無下限呪術(むかげんじゅじゅつ)」と、それを扱うための「六眼(りくがん)」
主な人物
五条 悟 (ごじょう さとる)
役職: 五条家当主・特級呪術師
「無下限呪術」と「六眼」を併せ持って生まれた、現代最強の呪術師。呪術界の腐敗した上層部を刷新するため、教育者として次世代の呪術師を育てています。
乙骨 憂太 (おっこつ ゆうた)
役職: 特級呪術師
五条悟とは「菅原道真」を介した遠縁の親戚。日本に4人しかいない特級呪術師の一人。底なしの呪力量を持ち、特級過呪怨霊「祈本里香」の力を扱います。
禪院家
御三家の中でも特に血統と相伝の術式を重んじる、最も保守的で排他的な家系。術式を持たない者や呪力が低い者は一族として扱われないほどの徹底した実力主義・血統主義を敷いています。
相伝の術式: 「十種影法術(とくさのかげぼうじゅつ)」、「投射呪法(とうしゃじゅほう)」
主な人物
禪院 直毘人 (ぜんいん なおびと)
役職: 第26代禪院家当主・特別一級呪術師
相伝の術式「投射呪法」の使い手。非常に保守的で傲慢な性格ですが、その実力は本物です。「術師=時間」という持論を持つリアリスト。
禪院 直哉 (ぜんいん なおや)
役職: 禪院家「炳(へい)」当主・特別一級呪術師
直毘人の息子で、次期当主と目されていた人物。父と同じ「投射呪法」の使い手。家の価値観を体現したような選民思想の持ち主で、真希や恵を見下しています。
禪院 扇 (ぜんいん おうぎ)
役職: 準一級呪術師
直毘人の弟で、真希と真依の父親。当主になれなかったコンプレックスから、実の娘たちに対しても冷酷な態度をとります。
禪院 真希 (ぜんいん まき)
役職: 呪術高専東京校生徒・四級呪術師(昇級保留)
「天与呪縛」により呪力を一切持たない代わりに超人的な身体能力を持つ人物。呪力至上主義の禪院家を見返すため、当主を目指して家を出ました。
禪院 真依 (ぜんいん まい)
役職: 呪術高専京都校生徒・三級呪術師
真希の双子の妹。姉とは対照的に微弱な呪力と、無から物質を生み出す「構築術式」を持つ。家から出た姉を恨んでいましたが、その本心は…。
伏黒 甚爾 (ふしぐろ とうじ)
役職: 元禪院家・術師殺し
旧姓は禪院。真希と同じ「天与呪縛」により呪力を完全に持たない代わりに、五感を極限まで研ぎ澄まされた超人。呪術界を離れ「術師殺し」として暗躍。恵の実父。
伏黒 恵 (ふしぐろ めぐみ)
役職: 呪術高専東京校生徒・二級呪術師
禪院家相伝の術式の中で最も価値が高いとされる「十種影法術」を受け継ぐ人物。禪院家の血筋ですが、家の外で育ち、家の価値観を嫌っています。

ところで、禪院家について、この記事独自の面白い考察があるの。
作中の『禪院家にあらずんば呪術師にあらず、呪術師にあらずんば人にあらず』という言葉。これ、元ネタがあるのを知ってる?
これは平安時代末期、絶大な権力を握った平家一門の『平家にあらずんば人にあらず』(平家でなければ人ではない)という有名な言葉の引用(パロディ)なのよ。
これだけじゃないわ。 五条家が貴族(菅原道真)、加茂家が祭祀(賀茂氏)というモデルを持っているのに対して、禪院家は呪具やフィジカルを重視する『武闘派』集団。これは、貴族ではなく『武士』として武力で台頭した平家とそっくり。
そして、その結末も。 平家が源氏との戦い(源平合戦)で滅びたように、禪院家も禪院真希という圧倒的な『武力』によって一掃され、家としては滅亡してしまった。
だから、禪院家は陰陽師の家系ではなく、同じ平安時代でも、武力で栄え、その傲慢さゆえに滅び去った『平家』をモデルにしている。 ……というのが、私の考察なんだけど、どうかしら?

でも、一つ思ったんだけど、平家を滅ぼしたのはライバルの『源氏』っていう外部の敵だよね。 でも禪院家を滅ぼしたのは、家の血を引く『禪院真希』っていう身内じゃない?
……いや、でも…。むしろそこがキモかもしれない。
禪院家は『呪力至上主義』っていう自分たちの価値観で、真希ちゃんを『出来損ない』として家から追い出して、虐げて、最後は命まで狙った。 つまり、平家が『外部の敵』に滅ぼされたのに対して、禪院家は『自らが生み出し、切り捨てた内部のバグ』によって滅ぼされたんだ。
外部の敵に負けるより、よっぽど皮肉な結末だよね。自分たちのシステムの矛盾そのものに喰われたっていう。 うん、やっぱりこの『平家モデル説』、面白いと思う!
加茂家
歴史上のモデルは「賀茂氏」と考えられます。御三家の中で最も保守的で、血統を重んじる家系。本家筋は京都呪術高専の学長を務めるなど、呪術界の伝統やルールを維持することに重きを置いています。
相伝の術式: 「赤血操術(せっけつそうじゅつ)」
主な人物
加茂 憲紀 (かも のりとし)
役職: 呪術高専京都校生徒・準一級呪術師
加茂家の次期当主。相伝の術式「赤血操術」の使い手。保守的な家の思想に縛られながらも、自身の信念に基づいて行動しようと葛藤する冷静沈着な人物です。
加茂 憲倫 (かも のりとし) – (別名:羂索)
役職: 明治時代・史上最悪の術師
かつて加茂家(分家)に存在した人物で、呪霊と人間の混血である「呪胎九相図」を生み出した史上最悪の術師として知られています。彼の術式や思想は、現代の呪詛師・羂索(けんじゃく)に引き継がれています。





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