ナウシカのモデルになったナウシカアー王女とは

蒼

ねえ栞姉ちゃん、ジブリの『風の谷のナウシカ』の原作漫画を読み返してたら、1巻の巻末に「ヒロインの着想源はギリシャ叙事詩のナウシカアー王女」って書いてあったよ!
ナウシカって、もともとはギリシャ神話の人だったの?

栞

おっ、目の付けどころがいいね! そうなんだ。宮崎駿監督が影響を受けたその人物は、古代ギリシャの叙事詩『オデュッセイア』に登場する王女さまなんだよ。
彼女がいなければ、英雄オデュッセウスの冒険はそこで終わっていたかもしれない……それくらい重要な「救い手」なの。判りやすく説明するね。

叙事詩『オデュッセイア』における
ナウシカアー王女の深層

英雄オデュッセウスを「野蛮」から「文明」へと引き戻した救済者。その構造的役割と文学的意義、そして現代文化への影響を紐解く。

✨ 要点:3分でわかるナウシカアー

誰なのか?

スケリア島(パイアーケス人の国)の王女。父はアルキノオス王、母はアーレーテー王妃。物語の決定的な転換点である第6歌に登場する。

何をしたのか?

漂流し、野獣同然の姿だったオデュッセウスに唯一人ひるまず、衣服と食事を与え、文明社会(王宮)へと導いた。「再人間化」の儀式を行った人物。

物語上の役割

「異界(神話)」と「人間界(現実)」をつなぐ媒介者。彼女の支援なしには、英雄の帰還(ノストス)は成就しなかった。

現代への影響

ジブリ映画『風の谷のナウシカ』の主人公のモデルの一つ。「自然と人間の調停者」というアーキタイプ(元型)として現代に継承されている。

I 叙事詩の文脈とナウシカアーの位置づけ

『オデュッセイア』とは

紀元前8世紀頃に成立したとされる、古代ギリシアの詩人ホメロスによる長編叙事詩です。西洋文学の源流の一つであり、前作『イリアス』の続編に位置づけられます。 トロイア戦争終結後、知略の英雄オデュッセウスが、神々の怒りや怪物(サイクロプスやセイレーンなど)の妨害に遭いながら、10年の歳月をかけて故郷イタケーに帰還するまでの冒険と苦難を描いています。

この物語のテーマは、人間同士の戦争を描く『イリアス』とは異なり、主人公オデュッセウスが故郷へ帰るための壮大な旅、すなわち「ノストス(帰還)」にあります。 人間と自然、あるいは運命との闘いが主軸となります。

「再人間化(Rehabilitation)」の儀式

ナウシカアーが登場する直前、オデュッセウスはポセイドーンの怒りにより全てを失い、全裸で泥にまみれた「野獣」のような状態でした。 ナウシカアーによる衣服の提供、食事、そして王宮への手引きは、彼を再び「人間」としての尊厳ある姿に戻すための通過儀礼として機能しています。

ナウシカアーは、英雄が「自然(野蛮な漂流者)」から「文化(文明的な王)」へと回帰するための、最も重要な架け橋なのです。

II 異界と理想郷:スケリア島

ナウシカアーの住むスケリア島(パイアーケス人の国)は、現実と神話の境界にある「ユートピア(理想郷)」として描かれています。 そこには驚くべき技術と、閉鎖的ながらも高度な文化が存在しました。

要素 叙事詩における機能
地理的隔離 神話的世界と人間世界の境界(異界)。英雄に休息を与える聖域。
王宮の豊かさ 黄金の像や常緑の果樹園。英雄の威厳を回復させるための舞台装置。
詩の文化 武力ではなく「言葉(物語)」によってアイデンティティを証明する場。

III 王女の役割と満たされぬロマンス

ナウシカアーとオデュッセウスの出会いは、偶然ではなく女神アテーナーによって仕組まれたものでした。 侍女たちが野蛮な姿の男を見て逃げ出す中、彼女だけがその場に留まりました。これは彼女の高潔な勇気を示しています。

「クセニア(歓待)」の体現者

彼女はギリシア世界の重要規範である「客の歓待」を即座に実行しました。 特筆すべきは、彼女の政治的な賢明さです。彼女はオデュッセウスに対し、父王ではなく「母であるアーレーテー王妃」に懇願するよう助言しました。 これは宮廷内の権力構造を熟知した的確な指示でした。

淡い恋心と拒絶

ナウシカアーはオデュッセウスに淡い憧れ(結婚の願望)を抱きます。しかしオデュッセウスはこれを婉曲に拒否し、故郷への帰還を選びます。 この「満たされないロマンス」は、英雄が個人の幸福よりも「義務と帰還」を優先するという、物語の厳しいテーマを強調しています。

歓待の代償:石になった船

ナウシカアーの善意は、結果として国家的な悲劇を招きました。 パイアーケス人がオデュッセウスを魔法の船でイタケーへ送り届けた後、彼らの敵である海神ポセイドーンが報復を行いました。

「ポセイドーンは、帰還したパイアーケス人の船を石に変え、海底に根付かせ、彼らの誇りである航海能力を奪った」

英雄の帰還(ノストス)は、彼を助けた異邦の民の犠牲の上に成り立っています。 正しい行い(歓待)であっても、神々の争いの余波を受けるという叙事詩の冷徹な因果関係がここに示されています。

V 現代への継承

宮崎駿監督の作品『風の谷のナウシカ』の主人公は、この古代ギリシアのナウシカアー王女から直接的な着想を得ています。 2人のナウシカには、時代を超えた共通のアーキタイプ(元型)が存在します。

古代のナウシカアー:
「神話的異界」から来た荒々しい英雄を、「人間社会」へと導く媒介者。

現代のナウシカ:
「人間社会」と、毒を持つ「腐海(自然)」との間の調停者。

両者に共通するのは「境界に立つ調停者(Mediator)」としての役割です。

📖 関連書籍:原作の深淵に触れる

風の谷のナウシカ 全7巻箱入セット

映画版は全7巻のうちの序盤(2巻途中まで)に過ぎません。原作漫画では、ナウシカが「清浄と汚濁」「人間と自然」の真実を巡り、より深く、より過酷な旅を続けます。古代叙事詩のような重厚さと、哲学的な問いに満ちた真の結末を目撃してください。

「彼女は、オデュッセウスが失われた自己を取り戻すための、最初にして最も純粋な光であった」

なるほど~! 助けてあげたのに船が石にされちゃうなんてショックだったけど、それだけの覚悟を持って英雄を救った王女さまだったんだね。
ただの「昔話」だと思ってたけど、現代のアニメともそんな深いところで繋がってるなんて驚きだったよ。ありがとう栞姉ちゃん。

栞

それはよかった。神話や古典には理不尽なこともあるけれど、だからこそ人間の強さや優しさが際立つよね。
この背景を知ってから漫画版の『ナウシカ』を読むと、彼女の背負っているものの重さが、また違って見えてくるはずだよ。ぜひ続きも読んでみてね。

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